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直腸がんのロボット支援下手術


直腸がんのロボット支援下手術

               

「ロボット支援手術」とは、執刀医がロボットをコントロールしながら行う低侵襲手術(患者さんの体への負担が少ない手術)のことです。現在この手術は「ダビンチ」という器械を使用して行われています。
「ダビンチ」は1999年にアメリカFDA(食品医薬品局)の認可を受けて以降普及が進み、現在では世界で6700台を超え、この手術を受けた患者さんも1000万症例以上となっています。

「ダビンチ」を用いた直腸がん手術は、2018年4月より、日本国内でも健康保険の適用対象となりました。直腸がん手術を勧められた際は、 主治医にご相談ください。
条件により対象外の場合もあります。



外科 根上 直樹
院外報「済生かわぐちVol.247」(2022.05発行)掲載

ダビンチで行える手術の種類

直腸は、大腸の中でも肛門と接する部分にあたり、長さ15㎝ほどの臓器です。
骨盤に囲まれた狭い場所にあり、 周囲には膀胱、前立腺、子宮などの重要な臓器と、排尿や性機能をつかさどる自律神経が集まっているため、大腸がんの中でも特に難しい手術となりますが、次の2つの処置を「ダビンチ」で行うことで、高い安全性が期待できます。

直腸切除術

病変から肛門までの距離がある場合に行う手術です。病変から肛門側に2〜3㎝離して腸を切除し 、残った腸同士をつなぎ合わせます。自然肛門は残り、手術後もご自身の肛門から排便ができます。

直腸切除術

直腸切断術

病変が肛門に近い場合に行う手術です。病変の取り残しを防ぐために、肛門をしめる・ゆるめる役割を担う筋肉(肛門括約筋)まで切除する可能性があり、この場合は自然肛門の代わりとなる人工肛門(ストーマ)を造ります。

ロボット支援下手術のメリット

これまで、腹腔鏡手術では難しいとされてきた直腸がん手術も、「ダビンチ」を用いることで安全で正確に行えるため、リスク発生の軽減が期待できます。

体の深部へのアプローチ

体に開けた小さな穴を支点にする腹腔鏡手術では、深部に進むほど動き幅が大きくなり、ブレやすく、また、先端角度が一方向のみのため、 操作に制限がありました。 「ダビンチ」はロボット独自の手ブレ防止機能や、手首以上の可動域を持つ鉗子によって、深部での処置もより正確に行えます。

直腸を覆う膜の切除

直腸は何重にもなる膜に覆われた臓器です。切除の際、どの層(膜と膜の間)を直腸からはがすかで神経損傷のリスクが変わります。「ダビンチ」の鮮明な術野と繊細に動く鉗子なら、選択した層を的確にはがすことが可能です。

術後のリスクを軽減

直腸がん手術に求められるのは、高い根治性と、術後の機能障害などのリスク発生の軽減です。
「ダビンチ」 は手術の安全性・正確性を高めることで、その実現を目指した手術支援ロボットです。

ダビンチによる手術

【深部へのアプローチ】
手ブレを防止でき、多関節機能により鉗子先端を意図する角度に操作することも可能

通常の腹腔鏡

【深部へのアプローチ】
支点からの距離が遠くなるため、動きが大きくなりブレやすくなることもある

膜の切除

【膜の切除】

    

患者さんのメリット

  • 入院期間が短い
  • 出血量が少ない
  • 合併症が少ない
  • 回復が早い
  • 手術創が小さく、傷痕を最小限に抑えられる

などがあります。



外科 根上 直樹
院外報「済生かわぐちVol.247」(2022.05発行)掲載

直腸がんのロボット支援下手術Q&A

ロボットが自動で手術するのですか?
「ダビンチ」は、操作する人がいないと動きませんし、勝手に動きだすこともありません。操作するのは、所定の訓練を受けた認定医です。医師の技術を補助するのが、ロボットとお考えください。
安全性は?
ロボット支援手術は十分な訓練を経て認定を受けた医師のみが行うことができ、器械自体にも正常な動作を維持する機能が数多く備わっています。手術に携わるスタッフも訓練を積み、徹底した安全管理の元に行われます。しかしながら、ロボット支援手術に限らず、全ての手術にはリスクが伴いますので、事前に十分に医師の説明を受けてください。
入院期間は?
手術の部位や範囲によって異なりますが、従来の開腹手術と比べると短くなる傾向があります。きず口が小さいため回復が早く、多くの患者さんの術後経過は良好です。
費用は?
直腸がんに対するロボット支援手術は保険適用となります。また、高額療養費制度も利用できます。詳しくは、外科スタッフにおたずねください。

ロボット支援手術のリスクと注意事項

患者さんそれぞれの病状や健康状態により、大きく異なります。詳しくは、主治医にご相談ください。

               

外科 根上 直樹
院外報「済生かわぐちVol.247」(2022.05発行)掲載